小畑 健さんの「人間失格」(太宰 治)表紙

小畑 健さんの「人間失格」(太宰 治)表紙

2007 年夏、小畑 健さんが表紙を担当した「人間失格」(太宰 治)が発売されました。

「朝日新聞」2007 年 9 月 18 日付朝刊より。

『人間失格』に『デスノート』風カバー
文庫本「ジャケ買い」
若者と古典を橋渡し

CD のように表紙のデザインで選ぶ「ジャケ買い」でヒットする文庫本が登場した。
本も中身だけでは売れない。
若い世代の心をつかむために、出版社はあの手この手の戦略を打ち出す。

集英社文庫は太宰 治『人間失格』のカバーを自社の人気コミック『DEATH NOTE(デスノート)』の小畑 健さんのイラストに変えたところ、この夏の 3 カ月で 10 万部を突破するヒットになった。

これまでは増刷しても年に数千部だった。
文庫編集部の伊藤 亮さんが「破滅的で美しい『デスノート』と太宰の世界観は通じるのでは」と企画。
解説などを含め、中身は変えていない。
「デスノート」の主人公を思わせる少年のイラストで、コミック売り場に置かれることもあり、近代文学になじみの薄い人たちも巻き込むブームになった。

そのほか夏目 漱石『こころ』、武者小路 実篤『友情・初恋』、宮沢 賢治『銀河鉄道の夜』の 3 冊を、俳優、蒼井 優をモデルにそれぞれの物語の世界をイメージした写真のカバーに新装した。
各 5 万部の期間限定で、まとめて購入する人も多く、表情がアップの『銀河鉄道〜』の人気が高いとか。
小山田 恭子編集長は「若い人に読んでほしいと願って、新装版にしました。古典にも工夫しどころがあり、魅力的なカバーで時代にあった装いに着替えていく。文庫だからできる醍醐味でしょう」と話す。

文芸のしにせ、新潮文庫も「さすがに漫画までは使えませんが」と前置きしながら、「カバーを変えると売れるのは事実。星 新一さんのカバーを変えたら、かわいいからとコーナーを作ってくれた書店もありました」と文庫編集部の佐々木 勉さん。
夏フェアの文庫すべて、帯からコピーを抜いて、パンダのキャラクター Yonda? くんが様々なポーズで本を読むイラストを 20 種類用意した。

「文庫王」の異名を持つフリーライターの岡崎 武志さんも集英社の蒼井 優版『友情・初恋』を「ジャケ買い」したひとり。
「全部を蒼井 優にしてほしいくらい大賛成。これをきっかけに、ほかの作品を読んでみようと思う人がいるかもしれない。教科書からも近代の名作が消えていく中、文庫は若い世代への啓蒙という役割を担っている」

「文庫は古くて堅い武士のような存在だった」と岡崎さんはみる。
たとえば古典なら、淡い模様のような抽象画で文学世界を表現するカバーが定番だった。
「今は、若い人たちの本に手を伸ばす力が弱くなっている。だから、本の方から手を伸ばしていかなくてはいけないのでしょう」

集英社文庫「人間失格」の累計発行部数は、1990 年の初版から 2007 年 5 月までが 37 万 4000 部でしたが、2007 年 6 月末に表紙を変えて 1 カ月半で 7 万 5000 部、2008 年 1 月までの 7 カ月で 14 万 2000 部と急増しました。